ここにもあった。最悪なシチュエーションが。




新幹線を待っていたのは、鷹雄 響輔だった。


黒いズボンに白いワイシャツ。暑いからだろうかワイシャツは腕まくりされていて、同じ色の上着を肩に引っ掛け、あたしと同じようにボストンバッグを提げていた。


見た感じからすると冠婚葬祭の帰りっぽい。


ボストンバッグの他に白い紙袋を提げていて、その中から淡い紫色をした花束がちょっとだけ飛び出てたから、きっと結婚式の方だろう。


響輔はびっくりしたように目をまばたき、


「すごいぐーぜんやな…」


とポツリと漏らした。


イヤなヤツに会っちゃったな。


あたしは僅かに顔を逸らして他人のフリをしたかったけど、マネージャーが目ざとく気付いた。


「youの“友達”?」


ともだち、と言うところを強調してわざわざ聞いてくる辺り探られていることが分かった。



「無関係よ」
「いえ、無関係です」




きっぱりと答えたあたしと響輔の声が揃って、あたしたちは同じタイミングで顔を見合わせた。


「you、気をつけてよ?あんたはまだこれからなんだから」


マネージャーはちょっと咎めるようにあたしを睨むと、値踏みするように響輔をじろじろと見る。


無遠慮なその視線に響輔が居心地悪そうに肩をすくめた。


それでも居合わせたことはさすがに無視できないのか、


「仕事?」とぶっきらぼうに聞いてくる。


まるで長年の付き合いのある友人のように、その問いかけは気軽なものだった。


考えたら、あたしこないだこいつに結構酷いことをしたと思う。


鴇田を騙して、龍崎会長を龍崎組に送らせた。結果失敗に終わったケド。


まぁそう簡単にコトが運ぶとは思わなかったし、ちょっと様子見のつもりだったけど、鴇田がダメージを受けてた(何があったのかは詳しく知らないけど)から良かったと言えば良かったかな。


それでも響輔はそのことに何も言ってこなかった。


「うん。そっちは?」


あたしも気軽に返す。まるで何も無かったように。


「俺は従兄弟の結婚式やった。これから東京帰るとこ」


「そ。あたしも東京でこれから仕事」


そっけなく返して、


「違う列に並びましょう」


あたしはマネージャーの腕を取った。