撮影も無事終わり、次の日に都内のテレビ局で撮影を控えているあたしはゆっくりと大阪見物することもなく、その日のうちにトンボ帰り。


寝る間もなく、くたくたに疲れていたけど、鴇田のマンションに居るよりかは随分まし。


あたしの父親があいつだなんて、絶対ありえないし。


っても、これだけは変えようもない事実なんだけど。


何でママはあんな男を選んだんだろう。


あたしなら絶対あいつなんて選ばない。


昔ママから聞いたことある。鴇田との出会いを。


彼はママが経営する小料理屋のお客だった。だけどお客として来る前に、一度だけ互いに顔を合わせていたらしく、二人ともすぐに合点がいったみたい。


その店の外で顔を合わせたときの状況は最悪。


ママはそのときから鴇田に恋をしてたらしいけど、(いわゆる一目ぼれってヤツ??)あたしなら絶対にありえないって言う最悪なシチュエーション。ロマンチックでも何でもない。


まぁこの話はおいおい話すとして、


鴇田は頭はいいし、お金持ちだけど性格がね―――…って人のことも言えないか。


あたしも性格良いとは言えないし。


そんなことをブツブツ考えながら、先を行く女のマネージャーの後を付いていく。


新大阪駅の東海道新幹線上り(東京方面)のホームは混雑していた。


東京に出て行く人はやはり多い。


あたしはキャップを目深に被り、Tシャツにジーンズという姿。


誰もあたしが“you”だとは気付かない。


マネージャーは特に迷うことなく、新幹線の乗車口のホームに歩いていく。


ホームにはすでに僅かな人の列ができていて、あたしはちらりと電光掲示板を見上げた。


「ちょっとぉ!ここ自由席じゃない!指定とってないの!?」


「急なことで取れなかったのよ。文句言わない、新人でしょ」


二言目には新人、新人って。


そんなこと分かってるわよ!


ちょっと映画の主役に抜擢されたからって、急に人気が出て仕事が舞い込んでくるような甘い世界でないことは分かりきっている。


しかもあたしは、まだマスコミにすらはっきりと公表していない身。


それでも新幹線代ぐらいケチることないでしょうが。


苛々とボストンバッグを持ち帰ると、



すぐ前で同じように新幹線の到着を待っていた若い男がゆっくりと振り返った。







「「あ」」






あたしたちは声を揃えて、そして同じように目を開いた。