空いた手で、響輔の鉄拳が飛んできて、俺は響輔の首を掴む手を緩めた。


「やっと本気になったか」


響輔の拳を寸でのところで避けると、挑発的ににやりと笑った。





「俺だって負けやしません!たとえ戒さんやろうが、この気持ちは絶対負けへん!!」





決して広くない浴室に響輔の声が響いた。


響輔の心からの叫びに聞こえる。


「ふぅん」俺は浴槽の縁に肘を突くと、響輔を見据えた。


俺の返答に響輔は、たじろいだように体を後退させた。


「やっと認めたな。朔羅が好きだって」


「………」


響輔は唇を結ぶと、バツが悪そうに俯いた。


「別に、おめぇが誰を好きになったって構わねぇよ。それが朔羅であろうが、な」


「戒さん……」


響輔は困惑したように眉を寄せて顔を上げた。


暴れたせいで、髪や顔に水滴がかかっている。


俺にはない、独特の色気を漂わせていた。


比べるもんじゃないけど、時々…俺はこいつに適わない気がしてたまらないんだ。





だけど俺も負けるわけには行かない。



龍崎 琢磨だろうが、響輔だろうが。






「フェアに行こうぜ?選ぶのはあいつだ。


たとえあいつがお前を選んだとしても、盃の件にヒビが入るわけやない。


お前かて鷹雄の跡取りやからな。




その資格は充分あるぜ?」