「転んだのか?大丈夫か?」


叔父貴が転んだ拍子に汚れた浴衣の泥を丁寧に払ってくれて、あたしをそっと抱き起こしてくれた。


「ここを出るぞ」


そう言われて、あたしは頷くしかなかった。


あたしは叔父貴の手を引かれて神社を出た。


あれほど煩かった中尾組の連中の足音も声も、今は聞こえない。


―――「何を聞いても、何か見ても振り返るな」


神社を出るときに言われた叔父貴の真剣な言葉を守り、


鳥居をくぐって外に出ようとしている最中に、中尾組の連中の叫び声とも怒鳴り声とも取れる緊迫した声を聞いて


それでもあたしは先を急いだ。





神社の中で暴れてるのは―――



きっと戒だ。




だけどきっと戒なら大丈夫。


戒の纏うオーラは中尾組の連中が纏う殺気と桁違い。


気配だけでその力が圧倒的な強さを誇ることを知っていた。


神社を出て、ようやくちらりと奥を窺う。


神社は薄気味悪いほどしんと静まり返っていた。



あたしは名残惜しそうに鳥居の連なりを見た。


さっき見た―――…青龍と朱雀の像が気になる。


単に神として奉ってあるに過ぎないだろうけど、まるで―――


青龍と朱雀。二つの相容れない種族の気持ちが―――今のあたしの気持ちを代弁しているかのように思えた。


二つの気持ちは交わることがなく、運命によって引き裂かれるしかなかった?


あたしたちも―――



あたしたちもいずれそうなるの?



あのお社の中の二つの像が、まるであたしたちの未来を物語っているように



思えた。