そのときだった。


「てめぇら、派手にやってくれたじゃねぇか。何もんだ?」


背後でドスを効かせたチンピラたちが、いつの間にかこの屋台を囲んでいた。人数にして十人ちょっと。


ちっ!こんなにも仲間がいやがったのか。


いかにも、と言う風情のヤクザたちの登場で、辺りが騒然となる。


悲鳴を上げて、みんなわらわらと逃げていこうとする。


「キョウスケ、リコだけはしっかりと守れよ」


普通だったらこんな野郎ぶちのめす自信はあるけど、何せ場が悪い。


こめかみに嫌な汗が流れて辺りを見渡し、あたしはふと顔を上げた。


逃げ惑う人々…悲鳴と足音が入り混じる騒然とした場で……


覚えのある気配を感じた―――



え―――………



あたしは辺りを素早く見渡した。


人がまとう気配と言うのは僅かな匂いだったり、息遣いだったり。


それぞれ全く異なるものを持っている。


―――その気配は爽やかな香りを纏っていて、とても静かで―――だけど、冷静過ぎるほど冷たい。


殺意こそ感じないが、計り知れない巨大な力。


「………お嬢…」


キョウスケも“そいつ”の気配に気付いたのか、そっとあたしに耳打ちしてきた。


あたしも大きく頷いた。




何であいつが―――……?