乱暴に襟元を正す鴇田に、
「申し訳ございません!うちの従業員がご無礼なことを!!」
と頭を下げ、おネエ店長が深々と謝った。
「いや。大丈夫だ。それに先に手を出したのは私の方だ」
その冷静な返答に店長がほっとしたのか、
「こちらのお代は結構です。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません!従業員はしっかり躾けておきますので!!」
とふてくされたようにそっぽを向いている戒の頭を掴んで、強引に下げさした。
鴇田が苦笑し、再びテーブルにつくと急に疲れがきた。
気を取り直してアイスティーに口を付ける。
「ここがバイト先だったからいいものを、他だったらお前指一本じゃ済まなかったぜ?感謝しな。
それに仮にも青龍の次期会長だぜ?あいつが跡を継いだら、立場が逆転する。
あいつの下にお前がつくことになるんだぜ。下手なことはしない方がいいんじゃない?」
そっけなく言うと、鴇田は
「ご忠告どうも」とあっさりと受け流し、お冷のグラスに口を付ける。
少しの間黙って水を飲んでいたが、考え直したように
「私はまだあいつを後継者だとは認めていませんよ。その気になれば私があいつを殺すことだって出来る」
気味悪い微笑を浮かべて鴇田が顔を上げ、あたしの背中にぞくりと悪寒が走った。
こいつが強いことは数日前の騒ぎで知った。
こいつはまだ―――100%の力を出し切っていない。
鴇田はちらりとカウンターの方を見ると、ふてくされたようにトレー拭きをしている戒を流し目で見た。
嫌な視線にあたしが鴇田の顔を凝視していると、鴇田は両手のひらを合わせて水を掬うような仕草をした。



