。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。



―――

――


「って言うかさぁ、あんたら兄弟って昔から歳取らないよね。どんな細胞してんのよ」


と、少し酔っ払ったのかイチが白い顔を僅かに赤くして明るく笑う。


俺は若作りしてるわけではないが、年齢に関しては良く不明(不詳)だと言われる。


あのお嬢だってきっと俺の歳を知らないはずだ。


だけど肉体的にはだいぶ衰えがあるように感じるこの頃。


俺はタバコを口に含みながら、ウィスキーロックに口を含んだ。


カラン、と氷が傾く少気味良い音がやけにはっきりと耳に響く。


最近―――歳を取った分……過去を振り返ることが多くなった。


思い出そうとして思い出すものではなく、ふとした瞬間それは俺の中に鮮明に蘇る。


まるで昨日の出来事のように―――





『生まれてくる娘を“一結”って名前にしようと思うの。きれいな名前でしょう?そう―――お店の名前と一緒よ』





“彼女”は、そう言って電話越しに―――きっと、はにかみながら笑っていた。



百合香は――…名前の通り、華やかで気品のある笑顔だったが、あの女は―――


庭の片隅でひっそりと咲く―――可憐なスズランを思わせる笑顔だ。



―――俺の隣でグラスを傾けていたイチが、体を傾けると、出し抜けに俺の膝の上に頭を乗せ寝転がった。


俺を見上げながらにっこり笑う。よく見ると、右頬に小さなえくぼができる。


『あの子ね、笑うと父親にそっくりなの。やっぱりどこかしら似るのかしらねぇ』


彼女の穏やかな声を思い出した。


ビデオレターと言うものだろか。ホームビデオに映った彼女がこちらに微笑みながら、頬に手を当てる仕草は、少女のように可憐だった。


母親になっても―――彼女と出逢ったときと、まるで変わらない。



「イチ、お前、酔ってるな」


「これぐらいで酔わないわよ。顔には出やすいけど、結構イケる口だよ?今度キョウスケと飲み比べしてみたいな。


シャドウファントムには負けたけど、お酒では負けるつもりなんてないし」


なんてイチは楽しそうに笑い、俺の膝枕で寝転がったまま器用にグラスに口を付ける。


「お前―――…キョウスケのこと気に入ったのか?」


俺の言葉にイチは目をまばたいて、俺を下から見上げてきた。