俺は素手で銃口を塞いだ。


「残念だが弾は抜いてある。お前が居る前でそれと分かる凶器を置いておく筈がないだろ?」


ちょっと笑って銃口を自分の方に引き寄せると、イチは目を開いてくやしそうに唇を噛み締めた。


俺はイチから乱暴に銃を奪った。


「大人をからかうんじゃねぇ」そう言って銃を再び上着にしまいこむと、今度こそバスルームに向かおうとした。


その動きをまたもイチが阻む。


俺の前に立ちはだかると、今度は俺の口元にそっと指を這わした。


冷たい指先だった。


会長のそれと温度も違う―――ひやりとした感触……


「……怪我…してる。龍崎会長にやられたの?」


「お前がしむけたんだろ。殴られただけで済んだのが奇跡的だ」


ぞんざいに言って俺はイチの手から逃れると、乱暴に顔を背けた。


「ふぅん?指は?」


楽しそうに声を弾ませて、俺の手を取ってきて俺は今度こそ諦めたように肩を落とした。




「骨にヒビが入った程度だ。折られる寸ででお嬢が……朔羅さんが止めてくれた…」




俺の答えにイチが意外そうに目を開いてまばたきをする。


「へぇ…それも意外な展開。あの子があんたの味方を……ねぇ」


意味深に笑うと、イチは興味深そうに目を細めた。


「俺の味方をしたわけじゃないだろう。あの場にはお嬢の友達…カタギの娘も居たから、そんな悲惨なところを見せたくなかったんじゃないか?」


そっけなく言って俺はネクタイをむしりとった。


ネクタイを手にして―――お嬢の首元を絞めたときの感触を……ふいに思い出した。