「俺たちが探るのをやめて、龍崎 琢磨から逃れても、果たしてイチからは逃れられるかな―――」


戒の低い問いかけがあたしの耳の奥に響いて、あたしは目を開いた。


「あの女に俺たち全員への殺意があったとしたら?現にイチは内部抗争による自滅を図ってきたんだ」


「俺たちが殺しあうように」


キョウスケが戒の後を引き継いで、あたしを見上げた。


「イチが―――……あたしたち…を?何で……?」


「分からない。でもあいつの目的が単に俺たちの中を引っ掻き回して愉しむだけじゃないってのは確かだな」


「……そんな―――」


あたしが胸の前でぎゅっと拳を握ると、戒がその手に自分の手を重ねてきた。


「食うか食われるか、だ。ここで諦めるわけには行かない」


戒の琥珀色の瞳の底で、金色の何かが光った。


その真剣な目に―――あたしは何も言えなかった。


「……で、でもタイガのあの様子じゃ、試写会には連れてってくれないかも。叔父貴のお怒りに触れたら今度はあいつだってただじゃすまされないだろうし」


「それは心配ないですよ。よほどのことが無い限り、あの人は俺たちを連れて行ってくれるはず―――」


キョウスケがはっきりと言い切って、あたしはちょっと眉を寄せた。


「何で言い切れるんだよ…」


キョウスケはあたしの疑問に答えてはくれずに無言であたしを見据えてくる。


キョウスケは、根拠のない自信で物を言うヤツじゃない。


だけど、こいつはこいつなりに何か考えがあるんだろう。


不安げな目で二人を見つめて、あたしはとうとう返事の代わりに戒の胸に顔を預けた。