「あれ~?“you”だ。久しぶりに見たぁ。女優デビューかぁ。すっごいね」


と、まだ通話中のあたしの横でリコがのんびりと口を開いた。


「リコ!あの女知ってんの!!?」


あたしが勢い込むと、その気迫にリコがちょっとたじろいだように一歩下がる。


「う…うん。前はよく雑誌に載ってたモデルだよ。って言ってもあたしたちが見るようなヤツじゃなくてお姉ちゃんが読んでた、ちょっとお姉さん系の雑誌だけど。


最近見なかったら辞めちゃったのかと思ったけど…」


「その雑誌今も持ってる!?」あたしはほとんど噛み付くような勢いで聞いていた。


―――



「だぁかぁら!あいつモデルだったんだって。それがここ二、三年見なくて」


『女優デビューしたと?“you”ってのは芸名か?って言うか、鴇田も琢磨さんもそのこと知ってたのか?』と戒の低い声が右の方から聞こえて、


『知っててそれでも敢えて隠そうとはしないみたいですね。デビューすることはずっと前から決まってたはず。あのお二人が知らなかったとは思えません』と左側からキョウスケの声。


「じゃぁ何で叔父貴は最初知らないふりをしたんだ?」あたしが聞くと、


『分からん。でも何らかの事情があったに違いねぇ』


『時間稼ぎかも。俺たちが何かを嗅ぎつける前に証拠を隠滅した可能性がありますね』


「時間稼ぎ……」


あたしは今……街の歩道の脇で二台のケータイをくっつけて、二人と電話会議中。


道行く人が怪訝そうに振り返っていく。リコも何事か目を丸めているし。


しょうがないじゃん!何せ急なことだったわけだし!


つまりこうゆうわけだ。


戒→あたしのケータイ、リコのケータイ→キョウスケ


っていう順で三台で連絡を取り合ってる状態。


『川上はその雑誌まだ持ってるって?』


「探せばあるだろうってことだけど…何せ三年ぐらい前らしいし」


『三年って言うとだいぶ顔は変わりますよね』


「でもリコはすぐに分かったぜ?とりあえず見て確かめるのが一番じゃね?」


『『そうだな(ですね)』』


二人の意見が合致して、あたしはリコの方を見上げた。