あたしが目を開いて、その女を凝視していると、女は忌々しそうに唇を結び、ゆっくりと立ち上がった。
「イチ!」
叔父貴が口を開いて、その声にびくりと反応すると、女は走り去ろうとした。
イチ……
それがこの女の名前?
「待てよ!」
あたしは思わず、イチと呼ばれた女に手を伸ばした。
白い着物の袂がふわりと揺れ、薄暗い室内に幻想的に浮かび上がっている。
一瞬、あたしが追っているは幻なんじゃないか、と錯覚してしまうほどだ。
だけど実際あたしは、赤い数珠の端を掴んだ。
夢中で引っ張ったからかな。数珠がブツリと音を立てて、派手に散らばる。
「わ!」
びっくりして思わず立ち止まってしまったけれど、女はそんなこと気にする様子もなく、さらに向こう側にある御簾をまくると、足早に去っていった。
手の中で掴んだ数珠の欠片を握りしめながら、
「待って!」
あたしもその後を追う。
「朔羅!追うな!」
叔父貴の怒鳴り声が聞こえて一瞬立ち止まったけれど、それでもあたしはその声を無視した。
あの女は幽霊じゃない。
人間だ。それも関係者。



