人間相手だったら、どんな男でも倒してやる自信がある。
だけどこの女は?血の通った人間じゃない気がして、そんなことあるわけないのに…それでも得体の知れない何か別の生き物の気がして、振り向く勇気もない。
こっちに背を向けている叔父貴はこのことに気づいていない。
叔父貴を呼びたかったけれど、声も出ない。
「良いこと教えてあげる」
女が楽しそうに言ってあたしの耳に顔を近づける。
柔らかい髪があたしの首筋をそっと撫であげた。
ぞくり
悪寒が走って、あたしはぎゅっと目を閉じた。
「龍崎会長と、狐の嫁入りには気をつけて」
龍崎会長ト狐ノ嫁入リ―――………?
何それ……
何かの暗号?
「あんた…狐なのか……?」
あたしは震える声で何とか答えた。怒鳴り返してやりたかったのに、声は弱々しく足元の畳と高い天井に吸い取られた。
「狐……?やだぁ違うわよ。そう言う意味じゃなくて……」
意味深に笑うと、突如女が息を呑んだ気配があった。
前を向くと、叔父貴がケータイを片手にこちらを見て固まっていた。
「何で……お前が……」
叔父貴はケータイを握ったまま、あたしではなく、あたしの後ろにいる女を凝視していた。



