恋わずらい



『…あの。』


空いていた左手で
彼の手を振り払う。

雨に打たれて制服も髪も
濡れてよれよれになったのに、

彼の虚ろで真っ直ぐな瞳から
あたしは何故か目を離せずにいた。


『…ごめん。人違いだった』


そう言って彼は、
表情を崩して無理矢理に笑った。


『あ、…はい。』


あたしもふと我に返って
葵先輩に借りた傘を拾い上げる。

今更傘をさしたところで
濡れた体はどうすることもできない。