細く長く息をついた。
井口、私に気づかなかったのかな。
……そういえば、昨日まで朝練の井口に声をかけようとしたことなんてなかった。
一週間。あと6日だけの彼女のくせに、今までと違うようなことしようなんて方が、間違ってるかも。

教室に行こうかな、と昇降口に向かおうとした足は、男テニの妙な歓声にびっくりして、止まった。

「?」
「上岡!」
「っ! 井口、」

やけに騒いでる男子の中から、井口が私のところに駆け寄ってきた。
思わず頬が緩んで、一歩……二歩くらい、私も近づいた。
井口、来てくれた。

「おはよう」
「お、……おはよ」

向こうがやっぱり、騒がしい。何かみんな、こっち見てる?
笑ってる? あ、手ふってる。
何だろ、と振り替えそうとした私の手は、井口の大きな手に捕まって、静かに下ろされた。

また、歓声が一段と大きくなる。

「ねぇ、あれ、」
「ん?」
「何かあった?」