……あんまりよく眠れなかった。
頭が、ぼんやりと霞がかかったみたいに晴れない。

とぼとぼと、重い足を引きずるように校門をくぐったとき、男子テニス部の朝練終了の号令が聞こえた。

毎日聞いている声。井口がいるかも、って、声の方を振り返るのが日課になってた。
だからってわけじゃないけど、やっぱり反射的にそっちを向いてしまうのはしょうがなくて。

「……いた」

井口。
あんまり会いたくないな、なんて思ってたくせに、見ちゃうと嬉しくて。
口元が緩むのも、抑えられない。

ふと、井口が一瞬こっちを見た。
手とか、振るべき? いや、でも、とか考えてる間に、彼はふいっと隣の男子と話し始めてしまった。

あぁ、もう。
どうしてタイミングが悪いんだろ。