「放課後、時間あるか?」

登校した私を待っていたのは、井口のそんなお誘いだった。
壁みたいに私の前に立ちふさがって、質問というよりは確認みたいな口調でいい、井口は持っていた手帳を制服のポケットにしまった。

「……ある、けど、なに?」
「じゃ、デートしよう」


不意打ちに弱い私は、その意味を理解するまでに、たっぷり30秒くらいかかった。
その間、井口は何をいうわけでもなく、じっと私を見おろし(メガネが分厚すぎて多分としか言えないけど)、待っていた。

「デート」
「そう。デート」

何度も何度もその言葉を反芻して、私はこくりとうなづいた。

井口は、私の答えを予想していたかのように「図書室前で」と告げて、ぽんと私の頭を叩き、教室から出て行った。

デート?
……デート!?