甘いパンをもう一口かじった井口は、大しておいしそうな顔もせずに言った。

「上岡の弁当は、いつもバランスが考えられてるな」
「考えてるのは、お母さんだけどね」
「菓子パンばかりだと、ばかになるのか?」
「そうだよ」
「じゃ、バランスのいい食事をしている上岡と、偏った俺の成績は、」
「まぁ、食べなよ」

なんか嫌なことを言おうとした井口に、お弁当と、未使用のフォークを差し出した。
ちょっとびっくりしたように眼を見開いて、井口は微かに頬を緩めた。

「いい」
「なんで? 私の弁当が食べられないって言うの?」
「上岡が作ったわけじゃないだろう」
「そうだけど」
「上岡が作ったって言うなら……」

言うなら?

「絶対食べないんだけど、」
「ひど!」
「お母さんが作ったんなら」

一個だけ、と言って、井口はフォークで玉子焼きを口に運んだ。