「あはは!その顔、その顔いいねぇ!」長い睫毛に頭の頂点で結った一本の髪、着衣するは侍女のような奉公人のドレス‥全てが黒く、黒く黒く、黒色であり、そうしてそれが映える陶器に見たてられる白肌――見つめるもの全てを染める、赤い異の瞳は、まさしく先程の私が気づいた一点を十二分に肯定していた。『外の世界での景色と反転をしている』。まさしく今、私を抱きとめたこの人物は、あの外に置いてきてしまった、侍女の色違いであった。ただ、口調と表情は大分異なってはいるが。「絶望しているくせにまだ期待に溢れてるその顔、いいねいいね!」その人物はけらけらと下品に私の顔をその赤で見つめて笑い、けれどゆっくりと、床に私を立たせてくれた。「私、こうみえても意外と紳士だろ?、なあ、可愛くてしかし無知なお嬢さん」私から一歩離れ、仰々しくお辞儀をするその自称紳士は、よくよく見れば、あの侍女よりひとまわりは背の高い人物であった。私と同じほどの身長であったはずなのに、まっすぐ立ちあがった人物の顔を私は見上げなければならなかった。「はは、嫌かい?嫌だろう、私の言葉の全ては君の心情をまっすぐに射抜く。私は鏡そのものだからね」図星だった。この侍女もどきの言葉は全て私の思考の一部であった。私は無知だ、傍から見れば可愛らしいと馬鹿にされる無知だ。無計画で侍女を置いて未知な世界に勝手に足を踏み入れて、考えもなしに期待を抱いた―――。「しかし大丈夫だお嬢さん、私はお嬢さんの鏡だと言っただろう?」紳士は私に小さくウィンクをすると、その白肌の指先で前髪を掬いあげた。