爪先の愛撫



◆◇◆◇


「いてて……すごい背中ヒリヒリするんだけど」

「乙女心をもてあそんだ罰よ、ばか」


情事を終えた後、本当にお腹が空いたわたしは彼お手製のレモンタルトを頬張る。

うん、この甘さと酸味の加減が絶妙でたまらない。


「彼氏を放置しないでくれる?」

「ふんだ」

「ていうか、人の背中をガリガリ引っ掻くクセどうにかなんない? これからの季節、汗かくたびヒリヒリするのすっごく嫌なんだけど、俺」

「自業自得だと思います」

パクリ、とまた口に放り込む。まだ何か言ってるが無視だ、無視。

だって彼が悪い。
わたしはよだれ出てないかとか、声が変じゃないかとか、お腹のプニプニを気にしているのに、乙女心をズタズタにするようなことばっか言うのだから。


「これは正当な報復です」

「報復に正当もくそもないでしょ」

「っさい」


いてて、とまだ言う彼に、だんだんと謝ることが出来なくなってきて、チラリと整えたばかりの爪を見る。

指から少しはみ出たくらいがわたしのこだわりなのだから仕方ないじゃないか。


彼は顔だけはいいのだから、女の人が放っておくわけがない。
昨日だって、香水がぷんぷんしてたし、何もなかったとしたって香水が移るぐらい近くにいたってことでもあるわけだし……。

わたしなんて、地味で平凡でアヒル口で乱暴でわがままでアヒル口でアヒル口だし……考えだしたらまた


「アヒル口、出てる」


うっさい。て言おうとしたら、ちゅ、と吸い付かれた。


「あのさ、君っていま嫉妬してるでしょ」