慣れないそれは、不快でしかない。

彼が動かすたび伝わる振動は、なんともいえない。

あ、別にいやらしいことしてないから。想像した人早とちりだから。


「……っ」

「我慢してね、もうちょっとで終わらせないから」

「日本語正しく使ってよ」

「日本語って奥が深いよね」

「しるか」

晴れ晴れしい彼の声はすぐ耳元から聞こえるものだから、イラッとが倍増されてる。


わたしは今彼の膝へと(強制的)に座り、爪やすりで切ったばかりの爪をザリザリと整えてもらっている。


口で彼に勝てるなんてことは今までの経験上、まったく無かったので嫌がりながらも渋々わたしは膝へと乗ったのだ。

…ちょっとした抵抗のつもりで、「よろしくお願いします」と言いながら頭突きをかましてやろうとしたが不発に終わったことは、とりあえず胸にしまっておく。

「なあに。喉噛んでほしいの?」と言う彼のどや顔も、後で忘れよう。


……それにしても。


「ねえ、ちゃんとしてよ。そんな風に指持ってたら、気持ち悪い」


そう。
彼は指先を持たず、付け根を持って爪を磨いているのだ。

支えられない指先はもろにザリザリと振動を受けて、本当に気持ち悪い。

例えるなら、黒板に爪を立てて引っ掻くという、聞く側も不快極まりないアレが一番わかりやすい。

わたしが不満を訴えても彼は止める気配がなく、むしろ鼻歌さえ歌いはじめた。なんかうざい。


「……人の話、聞いてる? なんでこんな持ち方――」

「なんとなくさ、気になったんだよね」

何が、と聞かずとも彼は反応を待たずにさっくりと答えた。







「爪にも性感あるかなあ、って」