パチン、パチンと小気味のいい音をたてて爪を切ってゆく。


指の先端の背面にある表皮の角質が変化し硬化して出来た板状の皮膚の付属器官である爪。

普段から薄いピンク色のそれは切った場所からめいっぱい空気を取り入れていくような気がした。うん、気持ちいい。


パチン、パチンとまた少しずつ、綺麗な形になるように、たんぱく質の一種であるケラチンから構成された体の一部だったものを切り取ってゆく。

指から少しはみ出る程度に残すのが、わたしのこだわり。


「コーヒー、いれたよ」

二倍に濃くしたやつね、と台所から顔を出したのはわたしの彼氏兼同居人。

いつもおどけたような、妙にふざけた笑顔を常備している、たまにイラッとしてしまうやつだ。


両手に持ってるのはお揃いのマグカップ。ふにゃけたキリンとパンダのデザインは彼が持つとあまりにもアンバランスでいつもおかしくなる。


彼は二人がけのソファ、つまりわたしの隣へ腰をおろし、テーブルにコーヒーの芳醇な香りと湯気を漂わせるパンダのマグカップを置いた。

ちなみに彼のコーヒーにはホイップクリームがてんこ盛りだ。

普通は逆だろうけど。


ひじ掛けに頬杖をついて、にやにやとわたしを見つめるものだから自然と爪を切っていた手も止まった。


「そんなじろじろ見ないでよ」

「いや、べつに?」


一口、コーヒーを飲んで口の周りをビールの泡のように縁取ったホイップクリームを至極幸せそうにすくって指ごとふくんだ。


「ただ、可愛いなあって思ってさ」