恋愛事情



病院を出て…


しばらく歩くと


和野くんは
突然立ち止まった…



「真優花、ありがとう!」


「え?」


突然頭を下げられて
驚くあたし…


「和野くん…?」


「母さんの

あんな元気な笑顔を
見られたのも…

真優花のおかげだよ。

なんか…病気する前に
戻ったみたいだった…」


「あたしは何も…」


「真優花が、来てくれて
マジで良かった!」


そう言って和野くんは…
あたしの手を握った。


「あ…」


「この近くに、すっげー
旨い店あるんだ!
行こう…?」


「ん…でも…」


彼は、戸惑うあたしの手を
握ったまま…歩き始めた。


いつものように

あたしの歩幅に合わせて
ゆっくりと歩いてくれる。


「ね…和野くん…」


「あ、そうだ!」


話し掛けた
あたしの言葉を遮って…

和野くんが
急にあたしを見た。


「ん?」


あたしも彼を見上げる…


「あのさ…

さっきみたいに…
呼んでくれない?」


「え?さっき…?」


「母さんに…
俺の名前、言ったろ?」


「ああ!え…っと…

…悠…斗…くん…?」


「それそれっ!
でもさ…」

ふいに彼の顔が

あたしの顔に
近付いてくる…


「できれば…
呼び捨てがいいんだけど」

そう…耳元で囁かれると

ドキッとして

思わず俯いた…


「嫌なら…
無理しなくてもいいよ?」


あたしは俯いたまま

彼の手をギュッと握り

首を振った…



「……ゆう…と…?」



ドキドキしながら

やっと言えたのに…


何の反応もない彼を

疑問に思い


ゆっくり見上げると…

なんだか震えながら
泣きそうな表情で…

あたしを見ている…


「な…どうしたの…?」


「真優花…俺、なんか今
すっげー、ジーンときた!
ありがとう!」


そう言って、あたしを

ギュッと抱き締めた…