恋愛事情



「大丈夫!
あたし、木登りとか
大得意なんだからっ!」


と、苦しい嘘をついて


昇ることにした…


先に和野くんが上って


それから
あたしも昇った…


時折

強風にあおられながら


一段ずつハシゴを昇る…


手足が震えて

冷たくなっていくけど


上で待ってくれてる

和野くんの笑顔に

会いたくて


必死に昇る…



上の方まで行くと

和野くんが


あたしの方へと

手を伸ばしてきた…




上から差し出された
大きな手に



あたしも
下から手を伸ばす…



手が触れた瞬間…

グイッ


「…え…ふわわっ…」


突然

和野くんが、あたしの体を

一気に引っ張り上げたから



あたしは

恥ずかしいくらい焦って


変な声を出した…



彼はそのまま

あたしの体を


軽々と抱え上げると…

ゆっくり下ろしてくれた



「よっ…と…おつかれ!
…大丈夫?」


「はぁ…ありがとっ…
だい…じょぶ…はぁっ…」


真っ赤な顔で
激しく息切れするあたしを


和野くんは

驚いた表情で見ていたけど


しばらくすると


ふふっと笑った


「相澤さん、普段運動とか
全然しないんじゃない?」


「だって…はぁ…
嫌い…だもん…ふぅっ…

運動とか…体育とか…」


あたしは、ほっぺを
ぷーっと膨らませて

和野くんを見た


彼は、また少し笑うと


ゆっくり手を広げながら


深呼吸した…



「ここ…最高だろ?」



そう言われて

初めて…


ゆっくりと

周りを見渡した



遥かに広がる風景…

ジオラマみたいに小さな
街や人…遠くの山…


体中に流れ込んで来る
新鮮な空気…



頬にあたる冷たい風が
あたしの髪をなびかせて…



「気持ちいい…」



「だろ…?」