例えば私がアリスなら




「ところで、どんな劇の練習してんの?」


話し相手をさらりと私に換えたせいで部長の眉間のシワが深まる。

校内の部活で一番怖いと定評の部長ランキングで、厳しいイメージのある運動部を抜いて堂々の一位を獲得した我等が神山部長なのに……先輩には怖いもの無しなんだ!ますます素敵!


「……お前に教える筋合いは」

「不思議の国のアリスです!」


おおう、部長にギロッと睨まれた。
しかし先輩は全く気に留めない。室内の部員達はきっとビビってるに違いない。
だって物音一つしないし。



「へえー。それで真琴が……えっと」


「白兎ですよ。ピンクとか、頭どうかしちゃったんですかね」


「月江ッ……くんが衣装係なんでしょ〜っもう!」

平然と己の罪をなすりつけようとする後輩につかみ掛かりそうになった。
が、今は先輩の前!先輩が綺麗な瞳で私を見てる!

というわけで、寸でのところで突き出した手をヒラヒラさせて、ていっ☆と軽く月江の腕を叩いた。


月江くんったら、とてもおぞましいものを見る目で私を見てくるんですけど、私しーらないっ。



「あはははっ。
まあ、ピンクの白兎ってだけでもインパクトあるし、いいんじゃない?」


「……で、ですよねえ!」


嫌なインパクトです。



「じゃあアリス役は誰なの?神山?」


後ろからブッと吹き出した音がいくつか。
あー、今笑った人達、後でどうなるか知らないぞ。


「私じゃない」

「神山は女王様?」

「何故分かった!もしやお前、スパイか!!」


バスケ部が演劇部スパイしてどーするんですか。

というかこれ以上のはまり役はいないでしょう、と、部員の思いは今一つになっていると思う。


「部長じゃなくて、アリスは…………うさぎ」


「は?」

部長と後輩がハモった。


「え?アリスも兎なの?
もしかして皆兎?」


「あ、いや、そうじゃなくて」


両手を振って否定しつつ、私の視線はあるものにロックオンされた。

この場の皆がそれに気付き、視線を辿る。
そして向けられたのは、咲斗先輩の隣にちょこんと立つ、白い兎。