アリスは顔に力を入れて何とか笑いを堪えている。



が、努力虚しく「ふふふ、ふふ」と声が漏れちゃってたりする。



「おい結菜、どうした。
ジャンルが違うぞ。ホラーじゃなくファンタジーだ」



神山部長が丸めた冊子でアリス、もとい森戸結菜の頭を叩いた。

それを合図に今まで無かったざわめきが部屋中を満たす。




部員数20名の演劇部。
上下関係が少し曖昧な人もいるけど、基本仲の良い文化部。

文化祭の演劇発表の練習の最中で、まだ仮だけど衣装を着て最初の場面をやっていたんだけど



「す、すみません……いや、なんか白兎さんが可愛くてつい」


「……ああ、分からなくもない」


部長とアリスが白兎を見る目が痛い。


因みに白兎役は私だ。



アリス役の結菜は可愛いよ。
定番の水色のエプロンドレスがただでさえ可愛い彼女の愛らしさを助長してる。

じゃあ私は?

白兎だからって、白いウサ耳とふわふわ丸い尻尾をつけてピョコピョコ跳ねてると思ったら大間違いなんだなこれが。


実際私は部の衣装係をなめていた。


「ちょっと衣装係」


「はあい」

後輩の集まりの中からわりと明るめな茶に染まった髪の男子がニコニコしながら出てきた。

……こいつ、わざとだな。




「月江、どうしてこうなった」


「え?だって、衣装見ただけでもどんなキャラクターなのか分かるように、と思って」



確かに分かる。
私の格好はどこからどう見ても兎だ。



「……だからってピンク色の兎の着ぐるみはないでしょうが!!」


床を踏み鳴らし怒鳴るがどうも迫力が出ない。
てか着ぐるみがふかふかしてるから音が鳴らない!


「だって先輩兎でしょ」

「白い兎ね!決してピンクじゃなくてね!」


「着ぐるみその色しか無かったんですよー」

「着ぐるみ以外の選択肢は無いんか!」


どこの遊園地で風船配ってるウサギちゃんだ!!