私がソレに気付いたのは、足が上手く床に着かなかった次の瞬間だった。
疲れすぎて足に力が入らなくなったのかと思った。
だからバランスを崩して次の一歩が出せなかったんだと。
でも、私の足が固い床につくことはなく、視界は一転する。
トイレが一瞬で上にすっ飛んだのか。
違う、私が下へ沈んだんだ。
地が無ければ落ちるだけ。
私に羽があればどうにかなったかもしれないが、残念ながら今の私は兎。
……私は兎、って、なんか痛い子みたい。
立つことしか自分をこの場へ留める術が無い私は、重力に身を任せて、声をそこへ残す間もなく落ちていった。
ああ、私もここで終わりか。
最期が兎の着ぐるみでトイレなんて、多分世界で私だけだと思う。
というかトイレに人一人落ちてしまうほどの穴が空いているなんて、この学校はどんな管理をしているんだ。
使われていないトイレならまだしも、普通に栄えているトイレだ。
先生に言って何とかしてもらわないと……ああ、駄目だ。私トイレに落ちたんだった。
ああ先輩、ごめんなさい。
白い兎を捕まえられなくて。
部活の皆さんごめんなさい。
私の代わりに白兎役を立てて、劇を成功させてください。
懐中時計をストップウォッチで代用するのは止めてください。
結菜のアリス役、見たかったな。
絶対可愛くて、本番後にはファンがまた増えてしまうんだ。
すでに彼女にはさりげなくファンがいる。本人は鈍いので気付いてないけど。
あー、後輩君に一言文句言えなかった。
いや、一言じゃ全然足りないけど。最後の最後まで馬鹿にして……一応私先輩なのに。
あと部長、本番前なのにって怒るかな。
いや、いつも怒ってるか。女王様な部長、見たかったな。
…………劇、やりたかったな。
咲斗先輩……会いたいな。
頭を巡る今までの軌跡が闇に吸い込まれていく。
そして意識までも
意識を閉じたら、私は一体どこへいってしまうんだろう。
誰か答えてくれる人はいる?
結局は誰しも最期は独りなのに。
