呆然とする村の人々の中で、最初に気を取りなおしたのは、寺院の司祭だった。
 彼は、恐る恐る骨のかけらに近づいた。そして、そこにあるのがただの骨で、何の害もないことが分かると、後ろを振り返って言った。
「弱虫の神官どもめ、早くこの骨を片付けんか! 湖の魔物にとりつかれた魔女の骨じゃ。神聖なるこの場所が穢れる」
 それを聞いたジェイクは、司祭のところまで行くと、聖衣のえり首をつかんでしめあげた。
「なにをする! 乱暴は許さんぞ、放せ!」
 司祭は、かかとが下につかない足をばたつかせながら叫んだ。ジェイクは、言われたとおりに司祭を放した。が、放した勢いがよすぎたようで、平衡感覚を失った司祭はよろめき、ランダーが掘った穴の縁に足をとられて、中へと後ろ向きに転げ落ちていった。
 ランダーはソニアと一緒に穴から上がったばかりだった。二人は自分たちと入れ替わるように穴に落ちていった司祭を上からのぞきこんだ。司祭は穴の底で起き上がろうともがいていた。どうやら体の大きさのわりにたっぷりと布地をとった金襴の聖衣のせいで身動きがとれなくなったらしい。
「まあ、お気の毒に。だいじょうぶですの?」
 ソニアはいかにも気の毒そうに言った。
「早くわしをここから出さんか!」
 司祭はわめいた。
「でも、みなさん、遺骨を集めるのに忙しいようですわ。あたくしは異教徒ですから、先ほどのお約束どおりもう退散いたします。ごきげんよう」
 ソニアはそう言うと、足元にあったシャベルを穴の中に落とした。シャベルの柄は司祭の腹にあたったようだった。少しやりすぎだとランダーは思ったが、わめき続ける司祭に同情する気にはなれなかった。
 ジェイクとサイラは、骨のかけらをていねいに集めていた。村の農夫達も神妙な面持ちで手伝っている。神官の一人が見かねて、寺院で使っている白い布を持ち出してきた。皆はその上に遺骨を置き、そっと包んだ。
「この骨はどうしたらいい?」
 ジェイクがソニアに聞いた。
「湖に流すのが一番だと思うわ」
「そうだな」
 ジェイクはうなずいた。