「待って、二人とも!」
 ソニアが勢いよく立ちあがった。
「〈歌姫〉よ、邪魔だてをしないでくれ。これが我の望みなのだ」
「そうじゃないの、水の神――あたし、分かったの。今、気がついたわ。ランダーの言うとおりなの。彼女だわ」
「落ち着け、ソニア」
 ランダーは支離滅裂なソニアの話をなんとか理解しようとした。
「何に気がついたって?」
「魔物の正体よ。思いを残して死んだ人間が一人いるわ。アマナよ!」
 ランダーと水の精霊は鋭い視線を交わした。
「『ジェイクの店』で、彼女がいつも座って外を眺めていたという椅子があったの。そこの窓から外を見たわ」
 ソニアはもどかしげに言いながら、割り込むようにして水の精霊の前に立った。
「水門が見えたわ。あなた達はいつも水門の所で会っていたのではないの?」
 水の精霊はうなずいた。
「もしも、あの十字架を立てたのが彼女じゃなかったら? あの十字架があなたを遠ざけている事を知らなかったとしたら? ずっとあなたが来るのを待っていたとしたら?」
「あれが、今も我を待っているというのか? 死してもなお?」
 ソニアは熱っぽくうなずいた。
「サイラは、魔物が出るようになったのは一年くらい前からだって言っていたの。アマナが亡くなった時期と重なるわ――まちがっているのよ。魔は湖から来るのではない。村の中にいるの。しいの木の十字架は逆効果。村の中に魔を閉じ込めているのよ!」
「それは、お前の推測にしかすぎない」
 ランダーが言った。
「それが真実だとして、俺達に何かできるとでもいうのか?」
「できるとも」
 水の精霊がうなるように言う。
「あれの霊魂が安らかではないというのなら、我のもとに返せ。水の棺に収めよう。アマナが安らかであるように」
 ソニアは、顔色をうかがうようにしてランダーを見た。
 ランダーは大きくため息をつくと、長剣を一払いして鞘に収めた。
「乗りかかった船だ。しかたあるまい」