白樺林の間に見え隠れする湖は遠くで見たほど澄んだ水ではないようだった。どんよりと淀んだような色だ。水面にはミルクを流したような白いもやがかかっており、向こう岸は影のようにぼんやりとかすんで見える。
「ここの水は飲めるのかな」
 ランダーが言った。
「どうかしら」
 ランダーより先を進んでいたソニアが振り向く。
「あまり飲みたくはないわね。毒気を含んだような色だもの」
 この分だと、湖の主も毒気のある精霊かもしれない。ランダーはそう危ぶんだ。
 二人が進むにつれて木と木の間は広くなり、やがて湖へと下りて行ける広い場所に行き当たった。そこは、ソニア達が通って来た道から湖の波打ち際までゆるやかな下り坂となっており、薄茶色の砂浜との間には、緑のじゅうたんを敷き詰めたような草地が広がっていた。
「ここがいいわ」  ソニアは馬からすべり下り、荷物にくくりつけた大きな革袋を取り出した。中に入っていたのは、半球形の胴を持つ七弦琴だった。名前のとおり七本の弦を持つその楽器は、南部ではベルー族の民族楽器とされているが、もともとは呪術的な性質の楽器らしい。