店の奥で少女が二人、何を話していたのかは知らないが、ソニアがランダーをこっぴどくこき下ろしていたのは間違いないようだった。
「支度ができたのなら行くぞ」
 ランダーはそう言うと、エールの代金をカウンターに置いた。
「主(あるじ)、世話になったな」
「どういたしまして。道中ご無事で」
 ランダーとソニアは店の外に出ると、顔を見合わせた。
「ねぇ、魔物の話は聞けた?」
 ソニアは小声できいた。
 ランダーは馬の手綱をほどきながら、店の主人から聞いた話をかいつまんで話した。ソニアが娘から聞いた話も大差はないようだ。
「でもね、つじつまが合わないのよ。湖からの魔力はすべてあの十字架の柵でふさがれているのに」
「あれがまともに役にたっているっていうのならな」
「役にたっているわよ」
「どこかに立て忘れた場所があることも考えられる」
「ええ、そうね」
 ソニアの顔が不安げにくもった。
「本当に、湖の精霊のせいじゃないといいんだけど……」
「それは、どうかな。まあ、とにかく、あの湖まで確かめに行ってみようじゃないか」
 ランダーは励ますように言うと、ソニアを抱き上げて馬に乗せた。