「一年くらい前からかな」
 店主はランダーのジョッキに再びエールをついだ。
「はじめは野犬の仕業かと思った。夜のうちに子牛や子羊が襲われたもんでね。でも、死に方が尋常じゃない。噛み傷もなく、血も流れていないんでさ。朝になると枯れ木のようカサカサになった死体がころがっているって訳だ。そのうち見張りの村人も襲われて死んだ。丘の上の司祭さまに相談して、魔物除けの十字架を立てたり、追難の儀式をしてもらったりしたが、効果なし。まったく、司祭がこんな時に役にたたないで、いつ役に立つんだか」
 永遠に役に立たないだろうなと、ランダーは心の中で思った。
「その魔物はあの湖に棲んでいるのか?」
「俺には奴がどこから村にやってくるのか分からないが、司祭さまはそう言っているし、死体のそばはいつもバケツをひっくり返したように水浸しになっているんでさ。我慢しきれずに村を出て行った者もいますよ」
「なるほど。あんたは出て行かないのかい?」
「生まれ育った村ですからね。もっとも、これ以上ひどくなるようなら娘だけでも遠くの親類のところにやるつもりでさ――やけに、聞きたがるが、だんなは魔物退治で賞金稼ぎでもしてるんですかい?」
「時にはな」