急な坂道を上りきると、山はそこでとぎれ、坂の下方に扇状の平野が広がっていた。街道はゆるやかに曲がりながら、はるか彼方の山の方まで続いている。街道から少し離れたあたりに、白樺の林に囲まれた大きな湖が見えた。
 藍色の空はいつの間にか淡い水色に変わっており、たなびく雲の縁が紅色に輝いている。その雲の間から水面に向けて、三本の光の柱が真っ直ぐに続いていた。
「湖だわ」
 ソニアがうっとりしたように言った。
「きれいね、ランダー」
「ああ」
 上の空で答えたランダーが見ていたのは別のものだ。湖水とは反対の側に赤や青の屋根が見える。集落があるらしい。
「もう! どこを見ているの?」
ソニアはキョロキョロしながら言った。
「ああ、村があるのね。行ってみる?」
そこに寄らなければならない理由は特になかった。馬はまだ疲れていないし、蹄鉄もしっかりとついている。食糧も水も充分にあった。強いて言えば、ソニアの服を調達しなければならないくらいで、それも次の城邑まで待てないわけではない。