そこで、どこに自転車を置いたかという記憶を辿ってみるが、どうやら僕の脳は三歩歩いたら忘れてしまうニワトリのように真っ白で特に役に立つ傾向はなかった。五十分間の授業を聞いて僕の脳は何を理解しているかといえば、その先生の頭がつるつるとしていたことぐらいだ。イコール、僕の脳内ノートはページ数ゼロ。そんな鳥頭以下の僕がだだっ広い自転車置き場を歩いても、僕の自転車は見つかるはずもなかった。僕は、自分の自転車のかたちでさえも忘れてしまっているのだ。さて、色は何色だったかな?明るい赤か、それとも闇に溶ける黒?さあ、分からない。解答のないテスト用紙にえんぴつを埋めているくらいの無謀さだ。考えをやめよう。しかし、自転車がなければ帰れない。とりあえず、近くの自転車に跨ってみる。足の指先がつくので、ちょうどいい大きさである。誰の自転車かは知らない。ただ、自分の自転車でないことは事実。試しにストッパーがついた状態でペダルを漕いでみる。ギアはペダルの動きにきいきいと悲鳴を上げては拒絶した。動かない。前輪と後輪は静止。確実に僕の存在を無視している。なんだ、物にでさえも僕は馬鹿にされるのか、と自転車から降りてそいつを蹴ろうかと思ったが、鳥頭以下の僕にはちょうどいいのかもしれないと思った。
僕の自転車はいまだに見当たらない。けれど、僕の前を通りこして、みんな自転車に乗っていく。かえっていく。僕だけが取り残される。むなしい。僕はこんなところで止まる人間じゃなかったはずだ。僕は、僕の自転車は。僕は歯ぎしりをして、自転車を押してみた。そいつらは簡単にドミノ倒しをどこまでも展開させた。僕の自転車は、未だに見つからない。アーアー、応答願います。