少しだけ、ほんの少しだけでいい、両腕を広げてみないか。そう、肩と並行に、床と並行にまっすぐ。方向は前方じゃなくて横で。ぐ、と肩と肘とそれから指先に力をいれて、できるだけぴん、と張り詰めて、限界まで伸ばしてみるんだ。ほんの少しだけ、そうしていて。‥ああ、よかった、僕の方が君よりちょっぴり長いや。自慢じゃないよ、ほら、良く言うだろ、自分が届く範囲を全力で守り通せって。だから、きっと、僕は君を守ってあげられる。うん、どこまでもね、なんて子供みたいに誓っておこう。僕はさ、学生での感情だなんてただの羨ましさからだって思ってた。大衆社会で思考が統一されつつある現代社会ではさ、多数の人間の行動が正当化されるんだ。誰かがやってる、その一言で肯定されるワンパターンの世界に、ね。個別の突起が孤独として蔑まれる。‥僕はそれでいいと思った。蔑まれてもいいと、僕は思ったんだ。気持ち悪いと思った。隣人と同じでなければ拒絶される生温かい、ゆるんだ繋がりなんて。それは違うって、真実ではないんだって、でも、どうだろう。君は違うって、この心情が疼くんだ。視界に映り込んだ君の肢体を見るたび、脳が痛い。つながりを拒絶してきた僕の部分をぺりぺりと、剥がしていくんだ。学生の恋なんて、感情なんて一時の幻想だ。マスメディアの恋愛指南に踊らされてるだけだって、脳に壁をつくってたそれが、剥がれていく気がしたんだ。君を見て、痛くなった。だから、剥がしたんだ。永遠を、僕は願うよ。何も知らない子供みたいに、終焉も、死という絶対的な敗北さえもどこかに忘れ去って。今は君がいる、それだけでいいと、いつも僕たちの上に青空があるように、そんな自然さで納得をする。いつか壊れることは分かっている。本当の安らぎの世界はない。均衡はいつだって不安定だ。けれど、今はそれも自然の循環だって、簡単に受け入れられる気がする。だって、君を守らなくてはいけないからね。白いワイシャツ。校章のついた制服。規則に従った姿見。いつかはこの格好で向かい合えなくなる、そんなときでも、きっとまだ青空は自然に青いはずなのだ。もしも、青空が緑になったとしても、傍にいるよ。僕は考えることをやめたんだ。受け止めていける。君が、僕をこの生温かい世界に招き入れた瞬間から、僕の脳の痛い部分は考えることをやめて君だけを見つめてる、ずっと。これからも、ずっと。