苺花(イチカ)

がたん。
旅行用のキャリーバッグが、いかにも重そうな音をたてた。
「…沙雪ちゃん…、どこまで登るの…?」
花は疲れきった声で聞いた。
「あともうちょっとです〜!」
「もうちょっとって…どれくらい?」
「そうですねぇ…。あとは立て札さんを横切って、りすさんのおうちを過ぎて…」


…どうやらまだ大分あるらしい。花はため息をついた。

石段の先は、まだ見えない。


「でも、あと少しですから!がんばって下さい、花ちゃん!!」

「うん…。ありがとう」



言って、跳ねるように進んでいく後ろ姿を見て、花は一人思っていた。
(すごい…。体力あるんだなぁ、沙雪ちゃん)

駅から歩いて長い(しかも傾斜がきつい)坂道を進み、やっと終わったと思ったところに、この石段があった。それまでは一緒に来たはずなのに…


(学園に通うようになったら、少しずつ慣れていくのかな…)

(…よしっ!)


花はすでに引くのも困難になったかばんを提げ、沙雪の後に続いた。