「だから、見てるだけで幸せ」
小さな声で彼はこう言うと、ふわりと笑った。
ちくり、と胸が痛む。「そうなんだ」と、喉の震えをおさえながら私は笑った。勿論作り笑いだ。好きな人が好きな人の事を話してるのに心底笑える人がいたら是非会ってみたいものだ。
私が言うのも何だけど、彼は片想いの一番楽しい所がよく分かっていると思う。恋愛経験豊富な友人も彼と似たようなことを言っていた。「片想いが一番楽しいんだよ」……友人の言葉を思い出す。でも欲が出れば私みたいになるよ。辛くなるんだよ。
そんなの言えるわけもなく、ただ彼の字が書いてあるノートの切れ端をぼーっと見つめていた。
一番後ろに座っている私たちの席からだと、前の席の人達の行動がよく見えた。ああ、だからかな。広瀬君が私の隣に座ったのは。だってそうじゃなきゃ、ちょっと仲がいいくらいの私の隣に座るわけがないじゃない。そもそも広瀬君は友達と補習を受けにきていたし、座るなら好きな子の近くの席だ。なのに何故一番後ろの窓際の席に座ったのだろう。一番見にくい筈なのに。隣の席は私だけじゃない。……ああ、だめだ。変に期待をしてしまう。意味なんてないって、わかってるのに。

