「ではこちらとしても、本気を出させてもらおう……ボブ!」

レグはもう一人の名を呼んだ。

すると今までアレックスと戦っていた男が、突然レグの横へ姿を現していた。それは一瞬の出来事で、私にはいつ移動してきたのかが速すぎて見えなかった。

「アレックスさん〜大丈夫ですか〜?」

「ハッ、そうだアレックス!」

私はエドの声で我に返った。饅頭の数などを数えている場合ではなかったのだ。

駆け付けるとアレックスが、建物の背に凭れて倒れ込んでいた。私は素早く身体を調べる。

「どうやら、致命的な負傷はないみたいね」

腕や足など、防具で覆われていない部分が切り刻まれてはいたが、急所の外れている箇所ばかりであった。

「ククク…これから楽しくなるところだったんだがな」

ボブはおもむろに着ているマントを脱ぎ捨てた。

瞬間、なんと彼の形態が変わったのだ。先程まで覗いていた形相が緑色の鱗で覆われ、トカゲのような爬虫類系の容姿に変化したのである。

同様に横にいたレグも変わっていた。昨日殺された魔物と同じように、彼らもまた人間に化けていたのだ。

ボブがそのまま腕を上げると、辺りの「気」が一変したように感じられた。

夜でもないのに一瞬で暗くなる。

空から降り注いでいた陽の光が、厚い雲に覆われてしまったかのようだ。

しかし上を見上げれば雲一つない。なのに視界が突然、モノトーンに変異したのである。

肌がビリビリと痺れるほどに、張り詰められた気の流れ。

まるで異界にでも迷い込んでしまったかのような、明らかに異質な感覚。