「そうなのですよ〜。美声効果のある温泉というのは〜世界でも珍しいのです〜」

エドの話によれば、吟遊詩人の間ではここの温泉は有名らしい。

直接攻撃型の術士とは違う間接系の彼らは、いざという時のために仲間をサポートしなければならない。そしてそのためには常に、万全のコンディションを整えておかなければならないという。

だから彼のような巡礼者は、必ずこの温泉へ立ち寄ることが多いそうだ。

「もしかして芸術士の場合はそういうのも、修行の一環なの?」

「勿論です〜。ただ温泉へ浸かるだけではないのですよ〜。
喉を潰してしまったら〜吟遊詩人としての生命(いのち)も絶たれますし〜体調を整えることもまた〜鍛練なのです〜」

世の中には多種多様の術士がいるように、それぞれの修行方法も当然異なる。

エドも私たちと同様、修行目的で温泉へ行きたいのだ。私にはそれを止める権利がなかった。

「私たちはいいから、エドだけでも行ってきなさいよ」

「え、いいのですか〜?」

「うむ、それもまた修行であるのなら、俺も構わないと思うぞ。ゆっくりしてくるといいのだ」

私たちの提案に、エドはしばらく迷っている様子だったが。

「分かりました〜。お二人がそう言われるのなら〜お言葉に甘えさせていただきます〜」

エドはいつもの陽気な表情へ戻りながら「皆さんとは夕方こちらで落ち合いましょう」と言うと、荷物を抱えて人混みの中へと消えていった。