これはまずい。

ルティナが逃亡したのだ。見つかったらまずいに決まっている。

「あ、えーっと、その……」

私が冷や汗を流しつつ宙に視線を彷徨わせ、必死で上手い言い訳を考えていると。

「ルティナ・マーキスは、どうやら逃亡したようだな」

騎士様たちの背後から、穏やかな低音が聞こえてきた。

間から顔を出してきたのはマクガレー団長と、フードを外した姿のディーンだった。

彼らが入って来ると騎士様たちは、緊張の面持ちで姿勢を正した。

その間を厳しい表情で通り抜けた団長は、驚いて固まっていた私たちの側までやってくる。

そして窓枠に手を掛け、外を見下ろした。

「……やはりな」

そう呟いた彼は静かに窓を閉めると、続けて無言で手を振り、背後に控えていた部下二人を退室させた。

すると一転。彼はにこやかな表情をこちらに向けながら、口を開く。

「では改めて君たちに、少し質問をさせてもらおうかな。
何、実に簡単なものだから、そのままリラックスして答えてくれても構わないよ」

彼は私たちを一通り見回しながら、そう切り出してきた。

(リラックスと言われても、ねぇ)

団長は愛想の良い笑顔をこちらへ向けていた。

が、それが私の目には不気味に映っていた。

何故ならこの前と同様、ダークグレーの瞳が、完全に笑ってはいなかったからだ。