「それって、人間には使用不可能な術と言われているわよね。
精霊力と精神エネルギーを、大量に消費するから」

聞いた話では、精霊石の限界を超えるので、術発動前に壊れてしまうらしい。

しかし似たような術なら私も毎日、故郷にいる父との手紙の遣り取りで使っていた。

私が使っているのは、離れた場所にある物体と、手元の物とを入れ替える術だ。

別名『等価交換術』とも呼ばれているが、目標物の正確な位置を把握しなければ成功しないなどの制限があるため、あまり実用的ではない。

ルティナの言っているのは、それとは全く性質の違うものだった。

「物体の入れ替え」などではなく、「物体そのものを移動」させるのだ。

しかも手紙のような無機物ではなく、生物を遠方の別空間へ、瞬間的に移動させることもできる。

「ヤツは上位クラスの魔物だ。それにサラの血族でもある」

「……サラ、ね」

私は眉根を寄せながら、左腕を掴んだ。嫌なことを思い出してしまった。

「それよりアイツらは一体、何をしているんだ?」

「え?」

ルティナの指さす方向を振り返って見てみると、ベッドに腰掛けているアレックスの前で、エドが静かな曲調の音楽を奏でているところだった。

多分待ち時間中は暇なので、吟遊詩人としての腕を披露しているのだろう。

彼はいつものように普通に演奏をしているだけだったが、しかしアレックスのほうは何故か拳を振るわせつつ、大袈裟に涙を流していた。