「一応用心のために軽い足止め程度の罠(トラップ)ならば、入口に仕掛けてはいたが……しかしそれは、外部からの侵入者対策用だ。
中心地であるこの場所や周辺部、出口には何も置いてはいない。
それに君が先程居た場所からここまで、直線距離にしたとしても、ものの5分とかからないはずなんだが」


「………」


「………」





やはりそうかっ!

辺りに充満している瘴気のせいで、方向感覚まで狂わされていたのだッ!!

「それより……いや、だが丁度いいかもしれない。君にも手伝ってもらう」

「手伝う? 一体何を」

私は驚いて訊き返していた。

魔物――しかも上位クラスが人間に頼み事をするなんて、有り得ない。

「この中心にあるモノを破壊してほしい」

「中心?」

私は黒い球へ出来るだけ近付き、覗き込む。

中心にあるのは鈍い光を放つ精霊石ほどの、小さな黒いガラス玉のようである。

それが周囲で蠢く黒い集合体の隙間から見え隠れしていた。

まるで霧の渦が、ガラス玉を包み込むような形で存在している。

「これは『瘴霊の種』と呼ばれるものだ。
これがこの付近一帯の瘴気を生み出している源泉だ」