「結界の開いた気配がないから、まだ中に居るとは思っていたが……ここに来るとはな」

「あなたは一体ここで、何をしているの?」

私は反射的に尋ねていた。

目の前にあるのは奇妙な光景だった。

魔物の前には黒くて大きな球体が、地面すれすれの位置に浮かんでいる。

大きさは彼の身長と同じくらいで、一見すると丸い形状の球である。

しかしよく見れば霧状になっていて、その集合体が球状に形作っているようにも見えた。

それらが全体的にゆらゆらと、小刻みに揺れている。

更にその一端が紐のように、魔物に向かって細長く伸びている。

魔物のほうはそれを受け止めるかのように、両手の平を胸の前へ突き出す体勢だ。

「それはこちらのセリフだ。俺のかけた術が有効な間に、ここを離れているはずじゃなかったのか。
それに今まで何をしていた。
あれから随分時間は経っていると思うが」

「それは……あなたにいろいろ尋ねたいこともあったし。
だから今までずっと迷路のような、あの森の中を彷徨っていたのよ」

「迷路のような森の中?」

彼は怪訝そうな表情を浮かべながら、眉根を寄せた。