黒装束に身を包んだ、トカゲの顔をした魔物――私の予想通りだった。

しかし徐々にその姿が大きくなるに従って、何処か様子のおかしいことに気が付いた。

酔っ払ったかのような覚束無い足取り。

顔を前へ突き出し、不恰好に丸められた背。

剥がれたマスクから覗く口元は、だらしなく開けられ、血走った焦点の定まらない眼は動かずに、真っ直ぐ前を向いたままだ。



「……臭う……臭うぞ……」

魔物は口から涎(よだれ)を垂れ流して、そのような言葉を呟きながら、私の直ぐ脇を通り過ぎていく。

こちらには全く気付いていない。

私は魔物が茂みの奥へ消えていくのを、そのまま見送っていた。



何が「臭う」のだろう。

確かにこの奥からは、瘴気を感じているけれど。



私はここで覚悟を決めることにした。

どちらにせよ私には、「精霊の加護」がないのだ。

勿論アレックスが居なければ、ここから抜け出せるはずがない。

それに昼間のルティナの話から考えると、彼女は先程の翼の魔物の元へ行くつもりなのだろう。

ということはそこに行けば、或いは彼女たちに会えるかもしれない。

それに今の敵の様子も気になるし。

「取り敢えず、行ってみるしかないわね」

私は気合いを入れるかのように呟くと、思い切って茂みの中へ足を踏み入れた。