「それにこの何とかミストとかいう霧を発生させている元凶が、ここに居る魔物なのだろう?
ならば仲間の窮地が救え、尚且つ英雄としての役目も果たせる。
これで全てが、丸く解決できるのだ!」

アレックスは力強くそう言うと、右手の人差し指をあさっての方向へ天高く掲げてみせた。



……何なのだろう。今までに味わったことのない、この奇妙な疲労感は。



と、ここで、風の切る音を微かに感じたあたしは、考えるより先に身体を動かしていた。

無数の黒い閃光が、さっきまであたしの居た場所を通り過ぎていく。

その先は森のような場所になっていて、そこに生えている数本の樹木を刻んでいった。

飛んできた方向に顔を向けてみる。

するとそこには、昼間戦った黒装束の男。……いや、今は魔物の姿に戻っている。

魔物はこちらの様子を窺うように、ゆっくりと近づいてきた。

「やはり貴様とは、縁があるようだな」

奴は懐から短剣を2本取り出した。

刀身が全体的にスパークしているようだ。それ自体に術を掛けたらしい。

あたしは溜息をひとつ吐いた。

コイツもあたしと同様、先程の演奏に導かれてきたのだろう。

「では俺が、君の楯となろう」

アレックスは腰に下げた鞘から剣を引き抜くと、あたしの前に立ち塞がってきた。