しかしそれもつかの間。

腰に携えている剣を直ぐに引き抜くと、右腕を高々と掲げて宣言する。

「だが! 俺は諦めないぞ。
例え腕一本へし折られていたとしても、奴らを倒してみせる!
それが精霊に課せられた、英雄としての俺の使命だっ!!」

「待て待て待て。その前に、誰かが来るようだ」

あたしは今にも、勢いで飛び出そうとしている彼の襟首を捕まえると、そのまま奥へ引き摺り戻した。そして後ろから口を塞ぎながら、身体を羽交い締めにする。

ここで誰かに見つかるのは面倒だった。先程のような事態は、成るべくなら避けたい。

今回あたしが討伐隊に参加した目的は『モンスター・ミスト』の中に入るため、そしてヤツを倒すためだ。余計な戦闘で、体力や時間を取られたくはないのだ。

程なくして、金属の触れ合う音と、人の話し声のようなものが聞こえてきた。

「この付近で、人間に変化した奴も潜んでいるらしいぞ」

「ああ。本人は人間のつもりらしいが、どうやら人間離れした容姿の奴らしい」

(人間離れ……)

あたしは腕の中で抜け出そうと必死に藻掻いている、アレックスの後頭部を見上げた。

確かにこの顔立ちならば、人間離れしているとは言えなくもないが―――。


その声主たちは、互いに短い会話を交わし終えると、それぞれ相手にしている魔物と戦いながら左右へ散っていった。

(もう既に、変な噂が広まっているようだな)

このような場所であっても、術士同士で互いの状況を交換し合い、戦闘を進めていくことも珍しくはない。

無論、余裕のある状態でなければ出来ないことではあるが。

「いきなり押さえ込んでくるとは、非道いではないかっ!」

あたしの腕からようやく抜け出せたアレックスは、早速抗議をしてきた。