「―――だからね、いくら私が防御術を使えたとしても、あの中で戦うことは初心者の私では難しいのよ」

エリスがアレックスに対して、何やら言い聞かせているような声が聞こえてきた。

途中の会話を聞いてはいなかったが、何か揉めているのか。

あたしはここで口を挟んだ。

「あんたたちは、戦闘に参加しなくていい」

その言葉を聞いたエリスは、大きな翠瞳を更に見開き、こちらを凝視してきた。

その表情から「何で??」という問い掛けが聞こえてきそうだ。

やはり彼女は自分たちが討伐隊に参加する、当初の目的を忘れているらしい。これはどうやら、それを思い出させる必要がありそうだ。

しかし脇からエドが、陽気な音楽を鳴らしながら言ってくる。

「僕とエリスさんは〜結界術を〜破ることができませんよ〜」

その言葉の意味を理解するのに、数秒の刻(とき)を要した。

「おい、結界は3人とも破壊できるんじゃなかったのか?」

あたしの問い掛けに、エリスも即座に否定する。

サラはあの時に言っていた。


『結界を破壊できるのは、その3人』だと。



だがよく考えてみれば、奴は魔物だ。あたしに対して真実を言うとは限らない。

或いはその情報自体が、何らかの罠だという可能性もあった。

何故そのことに今まで気づきもしなかったのか。

魔物ハンターである、このあたしが。



本来なら魔物の言葉など、耳を貸さないが普通だ。

その時のあたしは、ヤツを倒すことだけで頭が一杯になり、正常な判断力が鈍っていたのかもしれない。

だが今更そんなことを考えていても仕方がなかった。

もう後戻りはできない。

それにあたしには、どうしても成し遂げなければならないことがある。

例えそれが罠だとしても、前へ進むしかないのだ。