「アレはその……私には合わない術っていうか……だから……ええと――」

「やっぱり〜方向音痴のエリスさんでは〜使えないんじゃないかと〜思っていましたよ〜」

私の渾身の言い訳を最後まで聞かず、何故か納得したかのように頷きながら、エドはいつもの笑顔をこちらに向けてきた。

……ああ、このニマニマ顔を踏みつけたい。

「ですが、ご安心を〜。僕は良い物を〜持っているのです〜」

続けて胸を張って取り出したのは、一枚の薄いカードだった。

「あれ、これって…」

「そうです〜。精術札(スピリットカード)なのです〜」


『精術札(スピリットカード)』。


この術札には――例えば「火をおこす」「風をおこす」などといった、ごく単純な精霊術が封じられていた。

しかも一般的な雑貨屋の店先へ並んでおり、属性の精霊石さえあれば術士でなくても、手軽に使用できる魔術道具の一種である。

但し攻撃術などのような、強力な技は使えない。それに1回限りの使い捨てなので、無駄遣いができないというのも難点だった。

「これは〜方位探査用の術札です〜。僕が巡礼に旅立つ時に〜両親が餞別として何枚か〜持たせてくれました〜。
エリスさんたち精霊術士も〜パーティに居ますし〜その間は使うことがないと思ってましたが〜、まさかここで役に立つとは〜思いませんでしたよ〜」

最後の言葉は方位探査術を使うことの出来ない、私に対する嫌味なのだろうか。

普段通りの歌声からでは、真意がさっぱり読めない。