彼には魔物の術が効かない。身体に当たる寸前で、周囲には精霊の結界が張り巡らされた状態となり、術を弾く。

先程は『術』である結界に彼が触れた途端、その能力が発動した。故に弾かれた術はその形態を保つことができなくなり、破壊されたのかもしれない。

無論この考えは、私の憶測にしかすぎないのだが。

(ルティナも私たちのことを、何か勘違いしている?)

今彼女は「あの結界を破ったのはあんたたちだろう?」と訊いてきた。

「あんたたち」――つまり、また私とエドのことまで数に含まれているのだ。先程の魔物たちと同じである。

確かに私たちは3人で行動しているが、エドは結界を通らなかったので分からないにしても、私は破ることができなかった。

やってみせたのは、アレックス一人だけである。彼女はそれを見ていなかったのだろうか。

「さっきの結界を破壊できるということは、モンスター・ミストも破れるということになる」

「それはつまり、モンスター・ミスト自体が、魔物の結界術で出来ているということなの?」

「無論、そうだ」

「でもだからって、破壊できるとは限らないじゃない」

「アレはさっきの結界術と、何ら変わりない代物だ。
破るためにはそれを作った張本人――魔物を倒すか、或いはソイツに無理矢理にでも解かせるしかない。
だがその張本人である魔物は現在、その中に隠れていて外へは全く出てこないのさ。
つまり、外部からアレを破壊するのは不可能というわけだ。
だからそれをできる、あんたたちの協力が必要だ」

その説明で彼女の依頼理由は分かったのだが。

(にしても何だか、やけに詳しいのよね)

モンスター・ミストは中に入って調査ができないので、その正体は殆ど分かっていない。

なのに目の前にいる目付きの悪い女性は何故か、あの霧は魔物の結界だと自信たっぷりに言い切ったのである。

「むう、どういうことだ」

ここで初めてアレックスが口を開いた。

「何故ここにあるはずの手が、後ろの離れた場所へ、瞬時に移動するというのだ」

「あんたまだそれを考えとったんかいッ!!!」

一応ツッコんでおいた。

とはいえ彼のことだから、ある程度の予想はしていたけれど。