真っ赤に染まる身体…
霞んでゆく視界…
身体中に伝わる鋭い痛み…
裂かれた空間から目を背けられなくなった彼女は、そんな錯覚までも引き起こしてしまう…
知らぬ間に額に浮かんだ汗が頬を流れ、顎を伝って零れ落ちる…
空中を漂い、地に落ちたその一粒の汗で、ハッと現実へ引き戻される…
感じた事のないその魔力に、恐れからか顔をしかめると、近くにあった木の板を手に地を蹴った…
手にした板はナイフへと姿を変え、そのナイフで動かないライナスへと斬りかかろうとした…
だが、彼まであと少しという所で、瞑っていた瞳を開いた彼と目が合う…
その瞳は鋭く、強い意志を含む…
「『…今ここに姿を現せ……魔界の主、ベルギウス!』」
彼が言葉を言い放った瞬間、斬りかかろうとしていたマーガレッドの姿が目の前から消えた…
そして、彼女の代わりにライナスの目の前に現れたのは…
鋭い爪…
尖った牙…
真っ赤な瞳…
長く白い体毛に、左右に揺れる尻尾…
その体は見上げるように巨大で…
ただそこにいるだけで威圧感がある…
そのライオンに似た真っ白な魔物は、地に膝をつくライナスを見下ろし、前方を見つめる…
見つめる先にあるのは、今崩れたばかりであろう、1つの家…
そして、その中に倒れる1人の人物…
倒れるのは、先程までナイフを握り、ライナスに襲いかかろうとしていたマーガレッドである…
彼女はライナスに斬りかかる瞬間、突然裂けた空間から現れた何かに突き飛ばされ、勢い良く家の壁にぶつかっていたのだった…
強く身を打ち付け、頭を押さえながら上体を起こす…
そんな彼女の腕には、斬りつけられたような酷い怪我があり、押さえた額からは血が流れる…
霞む視界を何度もまばたきして整えると、自分を真っ直ぐ見つめる巨大なライオンの姿が映る…
その姿を瞳に映した瞬間、マーガレッドは目を見開く…
そして、恐怖からか、体は微かに震えている…

