その言葉をぼそりと呟くと、彼の拳からフッと力が抜けた…
そしてゆっくりと顔を上げ、遠くに立つマーガレッドを睨み付ける…
その瞳は、何かを決意したように力強く、しっかりとマーガレッドを捕らえる…
鋭く睨まれ、今まで強気だったマーガレッドは、少し怯みながら、ゴクリと生唾を呑んだ…
睨んでいた瞳を閉じ、深く息を吸うと口を開く…
発したその言葉は、何語かもわからない言葉…
呪文と思われるその言葉は難しく、聞き取る事も不可能…
長い呪文を唱えていると、彼が流した血液が、古代文字のような複雑な形に姿を変え、血で文字を描く…
至る所に現れた、様々な文字…
それを見回しながら、マーガレッドは、彼は何をするつもりなのかと、眉を潜める…
「『肉を裂き、血に染まる鋭き爪……
骨を砕く、頑丈な牙…
全てを捕らえる、真っ赤な瞳…』」
ふと気づくと、ライナスは普通に呪文を唱えている…
だが、その呪文は今まで一度も聞いた事がない…
そして、彼が身に纏う魔力の強大さ…
彼の身体を包み込む魔力はどんどんと膨らんでゆき、風もないのに辺りの軽い子石達を舞わせている…
眉を潜めながら彼が唱える魔法を聴いていると…
彼の隣の空間に、微かな歪みが生じた…
その歪みは、鈍い音を立てて広がってゆき、2メートルもの長さのひびをつけると、縦に空間を裂いた…
裂かれた空間の中は闇のように暗く、何かの気配を感じる…
突然、その闇の中から現れた、赤い2つの光…
その光は、真っ直ぐとマーガレッドを捕らえ、逃がさない…
その光…否、瞳といったらいいだろう。
真っ赤な鋭い瞳に捕らえられ、マーガレッドは身動きをとる事ができずにいた…
鋭かった藍色の瞳は見開かれ、微かに開いた唇は、わなわなと震えている…
その闇から、恐ろしい化け物が飛び出し、立ち尽くすマーガレッドに襲いかかると、抵抗する暇なく肉を裂き、腕を食いちぎり、骨を砕く…
あっという間に彼女の体を血に染め、その姿をこの世から消し去る…

